GAYA | Blog

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連載「足りない物のない世界」(4)

マンゴーの中の小さな宇宙(4) 



私はマッチを擦ると、今度は自分の煙草に火を点けた。
私とサドゥーのお爺さんのやりとりを、遠くからずっと見物していた人たちが、案の定こちらに注目して一斉にざわめいているようだった。しかしお爺さんサドゥー二人の顔は少しの変化もなかった。彼らなりの満足している顔のようだった。

見られているという緊張感から、煙草の味はよく分からなかった。
煙はガンジス河を渡ってきた風に流され、瞬く間に遠くへ飛んで行った。
 
横にいたもう一人のお爺さんは、私たちがやりとりしている間もずっと黙って、肘をついて寝そべりながら静かにガンジスを見ていた。
私はそのお爺さんにも煙草をすすめた。

するとそのお爺さんは、一本の煙草と引き換えに、バッグの中からマンゴーをひとつ取り出すと私にくれた。
そのバッグはお爺さんの横の地面に置かれており、きれいな色とりどりの布をつなぎ合わせたパッチワークで出来ていて、彼らの側に座った時から、そのバッグのあまりの可愛さにずっと気になっていた。

まだ緑色をした小さなマンゴーは、私の両手の中にコロンと乗っかった。ありがたく持って帰るつもりで食べずに手に持っていると、二人のお爺ちゃんたちが口を揃えて、
「カーロ、カーロ(食べろ、食べろ)」
と言い出した。
これ以上周りで見ているインド人たちの見せ物になるのは恥ずかしかったし、今ここで食べたら手がベトベトになるからちょっと嫌だなあと思って躊躇していると、
「いいから、食べろ食べろ。」
と、口を揃える。
 
お爺ちゃんたちの注文を受けない訳にはいかなくなって、私は「分かった、分かった。食べればいいんでしょう」という感じで、仕方なくその場でマンゴーの皮を剥き始めた。
すると、そこら中を飛び回っていた無数の蠅がマンゴーめがけて一斉に飛んできて、真っ黒になったかのようにマンゴーを隙間なく覆い尽くした。
しかしお爺ちゃんサドゥーたちは、そんな事少しも意に介す事もなく、相変わらず「食べろ食べろ」と言う。

私は意を決し、左手はパタパタと扇いで蠅を追いながら、右手でマンゴーを持って思い切りかぶりついた。(つづく)



aki
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