GAYA | Blog

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連載「足りない物のない世界」(3)


マンゴーの中の小さな宇宙(3)

私は言われたとおりお爺さんたちの側まで歩いて行って、「ここに座れ」と合図された土の上に腰を降ろし、並ぶようにして座った。そして三人で黙ってガンジス河を眺めた。
 
辺りはだいぶ明るくなって、時おり心地のいい風がそよいでいた。河は静かに悠々と流れており、水面がキラキラと反射していた。
しばらくするとサドゥーのお爺さんが横にいる私に向き直って、ヒンドゥー語でムニャムニャと話しかけてきた。何を言っているのか知りたかったけれど全く分からなかった。でもどうやら「煙草は持っているか」と聞いているようだった。
私はヒンドゥー語で、「ナヒン(ないよ。)」と、答えた。
するとお爺さんは、
「ナヒン(ないのか。)」
と、まるで確認するかのように私の言葉をポツリと繰り返した。

ガンジス河はほとんどの流路を南東に流れる。ガンジス河の水は、ヒマラヤ山脈の氷河から生まれて、海のある南へ南へと流れ、ベンガル湾へ注いでいる。
ある言い伝えによると、今、私の目の前を流れているこのガンジス河は、本当ならば私の前を右方向に流れていなければならない。なぜなら右が南の方角になるからだ。けれど何故か、ベナレスを流れるガンジス河はヒマラヤ山脈のある北へと、私の目の前を左に流れている。ヒマラヤから流れ出た水は、ガンジス河となって再びヒマラヤに向かっている。
本当かどうか分からないけれど、それがここベナレスがヒンドゥー教の聖地になった所以のひとつとも言われている。
 
どのくらい居ただろうか、私はずいぶん長い間お爺ちゃんたちの横に座って河を眺めていた。それともそう感じていただけなのだろうか。

しばらくすると、また、「煙草ないの?」と訊いてきた。
「ないよ。」
「ほんとに?」
「だからないって・・・。」

私は煙草を買いに一度ホテルに帰った。


 
お爺さんたちの元へ戻ってくると、煙草を箱ごとお爺さんに渡した。するとお爺さんは箱の中から、自分が吸う一本だけを引き抜くと、箱をそっくりそのまま私に返した。

私はびっくりした。私は当然、欲張りなお爺さんが煙草を箱ごと全部持っていってしまうだろうと思って、ホテルで箱に入っていた数本だけを残して、煙草をほとんど抜き取ってきていたからだ。
でもお爺さんは、純粋に今ここで吸いたいたった一本だけを欲しいのだったのだ。私の疑心暗鬼な心の狭さも、サドゥーにはすべてお見通しのような気がして、私は自分の顔が真っ赤になるのを感じた

私はマッチ箱を借りると、お爺さんがくわえた煙草に火を点けた。さっきからをずっと私たちを遠くから何気なく見ている人たちが、より一層注目しているのがわかった。
お爺さんサドゥーたちは、「お前も吸え」と言ってきた。今ここで私が煙草を吸うと、周りの人たちが余計にびっくりするのは想像できた。なぜならインド人から見たら私は本当に子どものように映っていたからだ。だけど、実は私もガンジス河のほとりで吸う煙草はどんな味がするだろうと、内心凄く吸ってみたかった。(つづく)


aki
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